顕微鏡歯科医が治療を受けるとき
「先生もムシ歯になることあるんですか?」
たまに患者さんとの会話に出てくることがあります。患者さんの立場からすれば歯医者さんは手入れも良いだろうからムシ歯にならないのだろうな、と思うのも当然ですよね。
でも、歯医者さんも歯の病気になることはあるのです。私のところでも何人もの歯科医の治療をしています。では、その歯科医の手入れが悪くて病気になってしまったのかといえば、、、、
そうとも限らないのです。
幸いなことに私は中学生のときにムシ歯治療を受けたきりで、それ以後48才になるまで新たなムシ歯ができたことは無く健康な生活を送ってきました。だから手入れが良ければ歯の病気は起きない、と断言したいところなのですが、どんなに手入れが良くても防ぎきれない歯の病気もあるんですよね。
その代表が「歯牙破折」。かみ合わせの力の影響などで歯が割れてしまう病気です。
歯科医にとって、この病気は色々な意味で悩みの多い病気なのです。なぜかといえば、まず予防がしにくいこと、診断しにくいこと、取り返しがつかず治療法が確立していないこと、が挙げられます。この病気の多くは中年に差し掛かったころから生じることが多く、歯周病にも罹っていないしっかりした歯に突然襲いかかるのです。「手入れもしっかりして、何でも噛めていたのに、近頃少し変な感じがする」「ある日の朝、フランスパンを食べていたときに、んっ?となり、それ以来少しヘン」という感じです。
私の場合、10年ほど前に旅行先で食事をしているときに左下奥歯に「ピキッ」という感じがしたのが始まりでした。以来、時々痛んだり、硬いモノを噛み難くなったりしていたのですが、食事の時に少し注意して噛めば普段は痛まなかったし、人体実験、という意味もあって、医者の不養生、を決め込んでいました。今から思えばやはり馬鹿なことをしたものです。
その悪夢は、去年8月の水曜日から始まりました。痛くなったのです、その歯が。何もしなくても、上の歯と少し当たるだけでも痛むようになってしまいました。これ以上割れてしまわないように、とりあえず仮歯にした方がいいな、と思ってみたものの、いつもなら一緒に働いている勤務の先生は夏休み休暇中で不在です。心当たりの友人の何件かに電話してみましたが、みんなお盆休み中で繋がりません。痛くなる前に検診を、なんて、いつも患者さんにお話しているくせに情けないものです。
それでも諦めずに電話をかけまくってようやく1人の友人と連絡がついて、夕方から仮歯にする治療をしてもらえることになりました。ありがたい!女神にみえましたね、友人の顔が。自分の顔もいつもこんな風に患者さんから見られていたら良いのに、なんてちょっと不謹慎なことを思いながら治療開始。1人で治療する友人の手伝いとして自分の診療室のアシスタントに頼み込んで助手をしてもらいながら夜9時ごろまで掛かって仮歯にして貰いました。これで少し力が加わってもヒビが広がらないので食事をすることができます。大感謝をしてしっかり治療費を払って、御礼を兼ねて麻布で食事をご馳走です。ビールが美味しかったーー。食べられる、って幸せですねー。歯医者さんはありがたい!
でも、悪夢はここで終わりではなく、ほんの序章に過ぎなかったのです。